2025年10月22日(水)、いぇーる in とかち(北海道小児等在宅医療連携拠点事業地域拠点事業)主催のシンポジウムを開催しました。
平日夜の開催でしたが、幕別町百年記念ホールの会場は多くの参加者で埋め尽くされました!

医療的ケア児・者のご家族、支援に携わる機関職員、関心のある市民の方々など、78名もの参加がありました。

「これはできないよね…」「こうしかないよね…」そんな制約・制限のある暮らしを、3名のご登壇者のお話をヒントに参加者の背景や役割それぞれの立場から見つめ直す機会となりました。

『地域移行するなら十勝がいいな♪』
~住むまでの道のりと今の暮らし~
自立生活センター(CIL)ラピタ 伊藤 欣司氏

1985年 北海道厚岸郡浜中町生まれ、3歳頃にデュシャンヌ型筋ジストロフィー症と診断される。
1998年 小学校卒業を機に旧国立療養所八雲病院へ入所、25年の長期療養を経て2023年に地域移行をする。
現在は北海道帯広市で24時間の介助と人工呼吸器を使用し、自立生活センター(CIL)ラピタの職員として活動しながら暮らしている。

伊藤氏は、病院で人生を終わらせたくない!やりたいことをして人生を全うしよう!という思いから、苦悩を乗り越え退院を果たすまでの道のりと、支援チームの発足と、いよいよ始まった十勝での楽しい自立生活について当事者としてお話くださいました。

病院生活ではできなかったこと=失敗やつまずき、壁にぶつかることも経験!と考え、様々なことに挑戦し、人生の旅路として最後まで “成功と楽しいことを積み重ねて人生を豊かに分厚く、悔いをできるだけ残さず生ききりたい!” この言葉には強い説得力を感じます。

トンネルの中にいるような毎日から十勝晴れのような毎日へ。生の声は胸を打たれると同時に、“こうなったらいいな” という思いを諦めなければ可能性は広がる、明るい未来は待っていること。
そして、ここ十勝には挑戦の後押しになる地域力がある!という喜びもありました。

『誰だってできる一人暮らし』
~重症心身障害者がひとり暮らしをした事例紹介~
居宅介護事業所Yiriba 藤田 友則氏

2000年に十勝の大樹町にある介護老人保健施設にて3年従事し、その後、小樽の介護老人保健施設で17年従事する。
次のステップアップを模索していた最中、医療法人稲生会を見学し、日常的に医療的ケアや人工呼吸器を必要とする重度の障害を持った子どもたちや成年と出会い、人生のロードマップを見つける。
2017年より稲生会に入社し、居宅介護や重度訪問介護のヘルパーとして従事している。

藤田氏は、医療的ケアや人工呼吸器が必要な重症心身障害者の “ひとり暮らし実現” の事例を紹介されました。
本人の意思・選択・自立。家から出したくない…、でも自分の亡き後は…、不安と葛藤を繰り返す家族の思い。新しい生活に向けて大きく背中を押したのは介護職からの「できるよ」でした。

医療福祉の連携や社会保障・地域資源の活用はもとより、関わる人々がその人らしさやできる力を尊重し、「できない」ではなく「どうしたらできるか」という視点をもって関わることで自己決定の選択肢の幅を広げることに気づきがありました。
「仕事の能力だけではなく人柄が最も重要。大切に思って関わってくれたらいい」というご家族の言葉も特に印象に残っています。

『医療的ケア者の自立生活』
~「支援という名の支配」を乗り越える~
北海道医療的ケア児等支援センター長 土畠 智幸氏

2003年より札幌市の手稲渓仁会病院で小児の急性期診療に従事する傍ら、2006年からは小児の訪問診療も行う。
2009~2012年度で北海道大学公共政策大学院修士課程。2013年に医療法人稲生会を設立、人工呼吸器等が必要な医療的ケア児者の在宅ケアを提供、2022年からは北海道医療的ケア児等支援センターの運営も行う。

2018年より、障害の有無によらずともに学ぶ場として「みらいつくり大学 」の活動も行っている。
▼みらいつくり研究所 – 困難を抱える人々とともに、より良き「みらい」をつくるための方法を探求する
>> https://www.futurecreating.net/
土畠氏は、支える制度について歴史的な変遷のまとめに合わせて、医療的ケア児者の自己決定と支援についても多角的な視点から触れられました。

“良かれと思って行っている支援は、長期的に見るとその支援がないと生きていけない、看護師が配置されている所じゃないと暮らせないんだ…、という支配に繋がっているのではないか…?”
“安心・安全を重視した手厚い支援や先回りが、挑戦や選択の機会を奪ってはいないか?” という懸念は、支援者の自己満足や無自覚なコントロールが潜んでいるのかもしれない…と気づかされ心を揺さぶりました。
自分の意思で選び取っていくまでいかずとも、家族や支援者が同じ意識を持って連帯することや、さまざまな選択肢を奪われることなく健全な他者との関係の中で束縛・制約・強制がない自己決定が尊重されることの重要性が示されました。

シンポジウムからの学び 望む暮らしが選べる社会へ
「医療的ケアがあるから生き方が制限される社会」から、本人・家族・支援者がともに支え合いながら、考え、学び合い、「その人が本来持つ力を信じ、発揮できる社会」へ。
『自己決定のサポートとは?』自問自答しながらも『自立生活は叶えられるんだ!』という未来への希望が見え、エンパワメントの出発点を自分の中に落とし込めた気がします。
お忙しい中お越しいただき、大変温かく貴重な時間を共有できたみなさま、本当にありがとうございました!

寄稿者:江上 りさ






























